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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

新和洋ドミナ曼荼羅(2)―ギリシア神話の美女

マゾヒストにとっての理想のドミナを、具体的に列挙しています。

第二回目は、ギリシア神話に登場する女神以外の美女を取り上げます。


パンドラ
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ジャン・クーザン『エヴァ・プリマ・パンドラ』
神々によって作られ、人類の災いとして地上に送り込まれた女性。
人類の増長に怒ったとき、ヘブライ神話のヤーウェは洪水を起こしたのですが、ゼウスが送り込んだのはパンドラという絶世の美女でした。パンドラは、ゼウスに持たされた災難の元が詰まった壺(箱)を開けてしまい、こうして人類に災いがもたらされました。
ここに「愚かな女性が災いをもたらす」という、ヘブライ神話の「失楽園」と共通する寓意を見出すこともできます。しかし、それにしてはパンドラは必要以上に魅惑的です。後世の芸術家の多くは、パンドラをむしろ「男を破滅させる美の力」の化身として解釈しています。


オンファーレ
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フランソワ・ルモワール『ヘラクレスとオンファーレ』                   ピーテル・パウル・ルーベンス『ヘラクレスとオンファーレ』
小アジアの大国:リディアの女王。
女神ヘラの吹き込んだ狂気の後遺症に苦しむ英雄ヘラクレスは、あろうことか太陽神アポロンと争いを起こし、罰を受けます。罰の内容は、「奴隷市場で売られ、買った主の下で三年間仕える」というもの。奴隷市場でヘラクレスを買ったのがオンファーレです。
オンファーレはヘラクレスを解放するまでの三年間、この英雄をペットの犬のように手なずけます。オンファーレの後宮では、男が女装をさせられていましたが、ヘラクレスも女装をさせられ、針仕事に従事させられます。ヘラクレス自慢のこん棒と獅子の毛皮は、オンファーレが取り上げ、身に着けます。外出の際にはヘラクレスがオンファーレに付き従って黄金の傘をさし出し、宮殿内ではヘラクレスが四つん這いになってオンファーレを背に乗せ、這い回りました。ヘラクレスが粗相をすれば、オンファーレに金のスリッパでぶたれたといいます。
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J. E. ダンタン『オンファーレの足元に跪くヘラクレス』


メデイア
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ウジェーヌ・ドラクロワ『怒り狂うメデイア』
コルキスの王女出身で、魔術を操って数々の伝説を作った女傑。
コルキスの国宝である黄金の羊の毛皮を奪いにきたアルゴー号の一行。メデイアはその船長イアソンに一目惚れしてしまいます。メデイアは父王を裏切って魔術でイアソンを助け、アルゴー号に乗り込んでコルキスを発ちます。メデイアは追っ手のコルキス船団を率いる弟アプシュルトスを誘い出して殺害し、バラバラに切り刻んで海にばらまきす。船団がアプシュルトスの遺体を回収している間に、アルゴー号は脱出します。
メディアは、イアソンの妻として、イアソンの母国イオルコスにたどり着きます。王が約束どおりイアソンに王位を譲らなかったため、王の娘たちをだまして、王を釜で煮て殺させてしまいます。
メデイアの魔力がイオルコスの民に恐れられたため、イアソンとメデイアは国を追われ、コリントスに逃れます。
イアソンは美しいコリントス王女グラウケと恋に落ち、メデイアを裏切って婚約します。メデイアは怒り狂い、グラウケに魔術を施した花嫁衣裳を送ってコリントス王ともども焼き殺します。さらに、イアソンとの間の二人の我が子を殺害してしまいます。絶望したイアソンはその後放浪し、不幸な余生を送ります。
メデイアはアテネに逃れ、アイゲウス王を夢中にさせて結婚し、アテネ王妃となりますが、アイゲウス亡き後、英雄テセウスの殺害を試みて失敗し、アテネを去ります。
その後各地で伝説を残した後、小アジアの王と結婚し、王妃となります。やがて女神となったメデイアは、エリュシオンの野(神々に祝福された死者が行ける極楽)の支配者になりました。


ヘレネ
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TV作品『トロイ・ザ・ウォーズ』より、シエンナ・ギロリー扮するヘレネ
その美貌で東地中海を大戦争に巻き込んだ絶世の美女。女神ならぬ人の身としては史上最高無比の美女とされます。
スパルタ王テュンダレオスと王妃レダの娘ですが、その実、例によってレダを見初め、手篭めにしたゼウスの娘といわれています。

テセウス
ヘレネが十二歳になるころにはその美しさはギリシア全域を騒がせていました。ヘラクレスと並び称されるアテネ王テセウスにさらわれます。これはテセウスが無理やり略取したとも、ヘレネは同意の上で駆け落ちした言われますが、ヘレネの兄たちによって、ヘレネはスパルタ王宮に連れ戻されます。
このときテセウスの母アイトラは、アテネ王母の地位を捨て、ヘレネの侍女としてスパルタに付き従い、トロイ滅亡まで永くヘレネに忠実に仕えます。

メネラオス
スパルタ王テュンダレオスは、全ギリシアの支配者であるミケーネ王アガメムノンの弟メネラオスにヘレネを嫁がせることを目論見ます。しかし、あまりに求婚者が多かったため争いを恐れ、イタカ王オデュッセウスの発案で、求婚者は、ヘレネの夫に一大事があった場合には命を賭してヘレネの夫に味方することを誓わせたうえで、ヘレネの夫をメネラオスに決めます。
決定は、ヘレネ自身に委ねたとも、くじで決めたとも、神託の形をとったとも言われますが、すべてアガメムノンとテュンダレオスの計略の範囲内です。メネラオスはスパルタ王宮に迎えられます。メネラオスはヘレネを盲目的に愛しますが、ヘレネは醜男であったメネラオスに常に不満を抱いていました。
「きっと、テセウスのような、私にふさわしい男がいつか迎えに来るわ」
と思っていたかもしれません。

パリス
トロイ王子パリスは、ヘラ、アフロディテ、アテネの三女神の中で誰が一番美しいかという審判をさせられた際、アフロディテを選んだため、世界一の美女が与えられることが約束されます。
パリスは客人としてスパルタを訪問した際、ヘレネを一目見て心惹かれます。そしてヘレネのほうも、
「すてき。ついにきたわ。この人こそ、私にふさわしい男だわ。」
と思ったのでしょう。二人はどちらからともなく恋に落ちます。折りしもメネラオスが叔父の葬儀に参列するためにクレタ島に発つと、パリスはトロイに渡って新しい生活を始めようとヘレネを誘います。ヘレネは待ったいたかのように夫を履き古した靴のように捨て、高価な宝石類一切を持ち出してパリスに従います。
トロイに戻ったパリスに対し、トロイの人々はその軽挙を非難し、ヘレネをスパルタに還すよう主張しますが、ヘレネの姿を見た瞬間から、だれもパリスを非難できなくなってしまいます。あるトロイ人は、
「あれほど美しい女のためならば、苦痛にあえぐ価値もあろうな」
とつぶやいたといいます。トロイの人々は、ヘレネがトロイに災いをもたらすことを知りながら、ヘレネを「トロイの王女」として受け入れ、スパルタの返還要求を拒否し、断固ヘレネを守るために戦うことを決意します。ヘレネはその美貌で、自分がトロイ全市民の命を賭しても守るべき価値がある人間であることをトロイの人々に認めさせたのです。
アガメムノンは弟の寝取られ事件を利用して全ギリシアにトロイへの報復を呼びかけ、かくして東地中海は十年に渡って血で血を洗うトロイ戦争に突入していきます。
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映画『トロイ』より、ダイアン・クルーガー扮するヘレネと、オーランド・ブルーム扮するパリス

デイポボス、そしてまたメネラオス
パリスは戦死し、ヘレネはトロイ王子の一人デイポボスと再婚します。
パリスが戦死したころにはヘレネはパリスに愛想をつかせており、矢で目を射抜かれ瀕死になって宮殿に逃げてきたパリスを足蹴にしたといいます。
トロイが陥落すると、ギリシア軍は破壊と殺戮の限りを尽くしますが、メネラオスは宮殿に直行し、ヘレネを探し回ります。メネラオスがデイボボスを見つけたとき、ヘレネはデイボボスと睦んでいたとも言われます。メネラオスはデイボボスを殺しますが、ヘレネを殺すことはできません。できるわけがありません。メネラオスは全てを許してしまい、再びヘレネを妻とし、スパルタに連れ帰ります。
結局、ヘレネをギリシアから守ろうとしたトロイは灰燼に帰し、市民は皆殺しにされたのですが、ヘレネはその死体を踏みつけるようにしてトロイを後にします。そしてギリシアもギリシアで、多大な犠牲を払った遠征の原因となったヘレネを、何の咎めだてもせず、いまやスパルタ王妃として迎えるのです。
ヘレネはスパルタ王妃として幸福な晩年を送った上で、死後はエリュシオンの野に召されたといいます。


キルケ
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ライト・ベイカー『キルケ』
海の孤島アイアイエ島(イタリア西海岸と比定される)の主で、艶やかな美貌と恐ろしい魔力を持つ妖女です。
島の壮麗な館に四人のニンフを侍女に従えて住んでいます。
キルケの館には獅子や狼などの獣や、豚や牛といった家畜がたくさん飼われています。
これらは、キルケが島に誘い込んだ愛人の男たちの変わり果てた姿です。キルケは男に飽きると、男を魔法の杖で打ち、「豚になれ!」と唱えます。こうして男たちは魔法で獣畜に変えられ、キルケのペットとして飼い慣らされるのです。
泉鏡花の『高野聖』は、おそらくこのキルケ伝説をベースにしています。


セイレン
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ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『セイレーン』
シチリア島周辺に棲む海の妖精の三姉妹です。
上半身は美しい人間の女性で、下半身が海鳥の姿をしています。
セイレンは美しい歌声と、その体から放つえも言われぬよい匂いで船乗りたちを魅惑します。セイレンに心を奪われた船乗りたちは浅瀬に乗り上げて難破し溺れ死ぬんですが、最期の瞬間まで、セイレンの歌声と芳香に酔いしれたまま、絶命するんですね。
セイレンたちはもともと、冥王ハーデスの妻ペルセポネに仕えていたニンフでした。セイレンたちは、自分たちが冥界に行けない代わりに、数多の男の魂を、ペルセポネへの供物として冥界に送っているのかもしれません。
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