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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

新和洋ドミナ曼荼羅(1)―ギリシア神話の女神

沼正三の長大なエッセイ集『ある夢想家の手帖から』の第一三八章は、「和洋ドミナ曼陀羅」と題され、マゾヒストにとっての理想のドミナを具体的に列挙しています。
なぜ「曼荼羅」なのかというと、沼の頭の中には「両界曼荼羅」のように、ドミナがずらりと居並ぶ図画が出来上がっており、それを披露する、という形式だからです。
ところがそこに列挙されている女性たちが、意外とミーハーというか…同時代に活躍した実在の女性が多く、私には一部の王族とハリウッド女優、日本人では曽野綾子くらいしかわかりませんでした。
(沼正三の曽野綾子崇拝についてはこちら↓をお読みください。)

沼正三のスクビズム(2)―『手帖』第一三八章「和洋ドミナ曼陀羅」~ドミナを選ばば曽野綾子

そこで、もっと普遍的な「新ドミナ曼荼羅」を作ってみたいと思います。

第一回目は、『手帖』第一章「夢想のドミナ」でも扱われたギリシア神話に登場する女神を取り上げたいと思います。

本記事に関して、下記サイトを大いに参考にさせていただきました。

神々のカタロゴス―ギリシア神話データベース


ヘラ
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バリー・ジェイムス『ジュピターとジュノー』
ギリシア神話でもっとも地位の高い女神。
大神ゼウスの姉にして后。
その名は古典ギリシア語で「貴婦人女主人」を意味します。
ローマ神話のジュノーと同一視されます。

神々の女王
ゼウスの兄弟:オリュンポス神族は、前世代のティターン神族との戦争:ティタノマキアに勝利し、ティターン神族の王:クロノスを殺したゼウスが新たに神々の王になります。
ヘラは、戦争の最中、彼女を保護しようとした母レアによって、大西洋のオケアノスの元に預けられいました。ヘラは、骨肉相争う陰惨なティタノマキアをよそに、養父母に大切に育てられ、眩いばかりの美少女に成長します。
平和を取り戻した天上に戻ったヘラの美しさに心を奪われた一群の神々。その中に、いまや大神となった弟ゼウスがいました。
再開した姉にゼウスは一目惚れし、熱烈な求愛を開始しました。傍若無人(神?)で、気にいった女神・美女は基本的に「手篭め」にして想いを遂げるゼウスですが、ヘラだけは別。高慢なヘラは何度もゼウスの求愛を拒んだ挙句、
「お后にしていただけないのなら、決してあなたのものにはなりませんわ」
と条件を出します。ゼウスの后、それはゼウス以外の諸神全てを跪かせる絶対権力です。ゼウスはこれを喜んで了承するんですね。
ゼウスにここまでさせるヘラの美貌…卑しい人の身としては、推して量り、遥かに憧れるしかありません。
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ギャビン・ハミルトン『ジュピターとジュノー』       アンニーバレ・カラッチ『ジュピターとジュノー』

孔雀と巨人アルゴス
ヘラには常に聖鳥:孔雀が侍っています。御車を孔雀に曳かせたという話もあります。
孔雀の羽にある目のような模様。これは、ヘラの命令に殉じてヘルメスに殺された百目の巨人アルゴスの目です。ヘラは首を刈られた忠臣アルゴスを「愛い奴」と思し召したのか、アルゴスの首から百の目をくりぬいてクジャクの羽に飾りつけたんですね。

イクシオンの恋慕
テッサリア王の子イクシオンは、地上で殺人を犯すのですが、ゼウスの計らいで天上に召されます。ところが、人の子イクシオンは煩悩を捨てきれず、あろうことか、僭越にも、ヘラの美しさに心を奪われてしまうんですね。もちろんこれはそれだけで罪。地上で人を殺したことなどとは比較にもならない大罪です。
イクシオンはタルタロス(冥界の最下層)に落とされ、燃え盛る火の車に縛り付けられ、鞭打たれます。刑期は、永遠。ゼウスやヘラがイクシオンのことを忘れても、イクシオンは永久に大罪を贖い続けなければならないのです。その脳裏には、今なお遥か天上のヘラの高貴な美貌が焼き付いていることでしょう。

自らを捨てた母を慕うヘパイストス
ゼウスが単独でアテネを生んだのに対抗して、ヘラが単独で産んだ子が鍛冶の神へパイストスです。才色双絶の美女神アテネに対し、醜く、片足が捩れていたへパイストスをみたヘラは、
「こんなのあの人ゼウスに見せられないわ」
と思し召したのか、生まれてすぐの我が子を海に投げ落としてしまいます。
ヘパイストスは、海の女神テティスに拾われてテティスに忠実に仕え、得意の鍛冶技術でテティスにたくさんのアクセサリを捧げます。
ある日テティスが身につけていたブローチに目を引かれたヘラは、それが、ヘパイストスの作ったものだと知ります。
「ふうん、あの子も案外使えるのね」
と思し召したのか、ヘパイストスを天上に呼び戻して鍛冶場をあてがい、さまざまな品物を作らせます。ヘパイストスは自らを捨てた母を恨むどころか、その後忠実に母神ヘラに仕えます。「二度と捨てられまい」と、母の歓心を繋ぎとめようとするヘパイストスの健気さに、同情を禁じえません。


アフロディテ
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シャルル=ジョゼフ・ナトワール『ヴィーナスの起床』
愛と美と性の女神。
数多の神と人が憧れる最も美しい女神。
ローマ神話のヴィーナスと同一視されます。

特別な存在
ゼウスを頂点とするオリュンポス神族は、ティタノマキアでクロノスを頂点とするティターン神族を打倒して天上を支配したのですが、ティターン神族のさらに前は、天神:ウラノスが世界を支配していました。クロノスがウラノスを打倒した際、切断されたウラノスの男根がエーゲ海に投げ落とされ、それにまとわりついたアフロから生まれたのがアフロディテです。
ゼウスの兄弟とその子孫からなるオリュンポス神族の時代にあって、ゼウスの支配には服しますが、その出生からしてアフロディテは特別な存在と言えます。
なお、ティタノマキアの最中、アフロディテはキプロス島で季節の女神ホラたちを侍女として従え、優雅に暮らしていました。
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ウィリアム・アドルフ・ブグロー『ヴィーナスの誕生』

薔薇と乳香の匂い
アフロディテの肌からは、神々の心をも蕩かす薔薇と乳香の匂いがたちこめます。より正確にはむしろ、薔薇と乳香が、アフロディテの肌の匂いに近い匂いを漂わせていると言うべきでしょう。薔薇と乳香はいずれもアフロディテの被造物というべき植物で、これらのおかげで私たちは、卑しい人の身でありながら畏れ多くもアフロディテの肌の匂いを想像するという光栄に浴することができるのです。
アフロディテの肌の匂いは、神に対しても強い誘惑の力を持っていました。ヘラは、どうしてもゼウスを誘惑したいときには、若返りの泉で沐浴し、華やかに着飾った上で、アフロディテに、その肌の匂いが染み込んだガードルを借りにくるのです。

夫はあの神
アフロディテの夫は、ヘラの記述でもご紹介した、鍛冶の神ヘパイストスです。醜く不具でありながら、寡黙で心優しいこの神も、心密かにアフロディテに憧れていました。ある時ヘパイストスは、
「何でも言うことを聞いてやる」
というゼウスに、
「そんなことをおっしゃって。そんならアフロディテ様を私の妻にしてくださいますか?できませんでしょう。」
と答えるんですね。この時ヘパイストスは、ゼウスがアフロディテを醜い自分の妻にするなど許すはずがないと思いながら、ゼウスを困らせようと駄々をこねただけだったんですが、なんとゼウスはこれを了承してしまいます。
「冗談でしょう?」
アフロディテは思ったでしょうが、しぶしぶゼウスの命に従います。こうして誕生した不釣合いな夫婦関係がどのようなものだったかは、想像に難くないですね。
ヘパイストスは妻の心を繫ぎとめるために、鍛冶場にこもって、必死でアクセサリや道具・家具を作っては贈り続けるんですね。養母テティスや母ヘラの身を飾った世にも美しいヘパイストスのアクセサリ。それを身に着けるにもっともふさわしい女神が、それを独占することになったのです。
にもかかわらず、アフロディテは醜い夫を忌み嫌い、まるで独りの身のように公然と、様々な美男と華やかな恋愛を謳歌し続けます。
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フランソワ・ブーシェ『アイネイアスの為にウルカヌスに武器を頼むヴィーナス』/『ウルカヌスを訪れるヴィーナス』      

ヘパイストスとアレス
中でもアフロディテが寵愛したのが軍神アレス。アレスはヘパイストスと同じくヘラの子ですが、腹立ち紛れにヘラが独りで産んだ「私生児」ヘパイストスと違い、ゼウスとヘラの愛の結晶です。醜く不具であったヘパイストスと対照的に、アレスは美しく、逞しく、勇ましい軍神に成長します。アフロディテがヘパイストスよりアレスを選んだとて、何の罪がありましょうか。罪があるとすればヘパイストスの醜さと、身分不相応な高望みでしょう。
アフロディテとアレスは、ヘパイストスが鍛冶場に行っている間に、ヘパイストスの館の寝室で、ヘパイストスがアフロディテに贈った壮麗なベッドの上で、何度も何度も愛を確かめ合いました。
アフロディテとアレスはこんな睦言を交わしたかもしれません。

「ねえ、そのベルトの留め金、あいつの作ったのじゃない?」
「ああこれ。母さんに頼んで兄貴に作ってもらったんですよ。まさかあなたに頼むわけにいかないですからね」
「遠慮することないじゃないの。あいつは私がいいつければ何だって作るのよ。それだけが取り柄なんだから。ねえ、あなたにはもっと華やかなデザインが似合うわ。作り直させましょう。うふふふふ。『アフロディテからアレスへ、愛を込めて』って裏に彫り込ませようかしら」
「そりゃさすがに兄貴も怒るんじゃないですか」
「怒れるもんですか。あなた、あいつの私への愛がそんな程度だと思ってるのね。いいわ。いますぐあいつを呼びつけて、今日のうちに作り直させるわ。『私たちが三回愛し合う間に作り直してもって来い』って。きっとあいつそのとおりにするわ。エロス、鍛冶場に行ってあいつを呼んできて頂戴」
「ちょっとちょっと、まずいですよ。」
「うふふふふ。冗談よ。軍神の癖に、意気地がないんだから。さあ、いらっしゃい」
「まったく、あなたにはかないませんよ…ん…んちゅ…」


…すいません、ちょっと暴走しました。
でもなかなかこれぐらいやりかねない、そんな三神関係トリオリズムです。

美少年アドニスの最期
アフロディテの本拠地キプロス島の人々は、いつもアフロディテの気まぐれに翻弄されます。
美少年アドニスもいわばアフロディテの気まぐれが生み出した一人であり、生涯を翻弄された一人ですが、その詳細は省略し、彼の美しい最期をご紹介します。
アフロディテがあまりにもアドニスを溺愛するので、短気で器の小さいアレスが嫉妬し、獰猛な大猪に変身して狩猟中のアドニスにを襲います。格闘の末、アドニスは大猪の牙に突かれて死んでしまいます。悲しんだアフロディテはアドニスの血に神酒ネクタルをかけてやります。するとアドニスの血からはアネモネの花が生まれ、アフロディテが流した涙からは、赤い薔薇がの花が生まれました。
神酒ネクタルでお気づきですね。『家畜人ヤプー』第28章3「ある黒奴の死と祝福」で、女神クララが瀕死の黒奴に神酒ネクタルを直接授ける美しいシーンは、この神話をベースにしていると思われます。
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ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『アドニスの目覚め』


アテネ
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アテネ神像
知恵と技芸の女神でありかつ戦の女神。
都市国家の守護者で、パルテノン神殿ももちろん女神アテネの神殿です。
処女神です。
ローマ神話のミネルヴァと同一視されます。

文武両道の美女神
アテネといえばその能力に目が行きがちですが、その前に、アテネはヘラ、アフロディテと並び称されるそれはそれは美しい女神です。そして、ゼウスと、ゼウスの前妻でティターン神族に属する知恵の女神メティスの子であり、数多の子の中でゼウスが最も愛した高貴な令嬢です。何もせず立ったり座ったりしているだけでも多くの神と人から崇拝されたであろう存在なのです。
そんなアテネが、学問、工芸、芸術、そして軍事、なにをやらせても誰もかなわない最高の才女なのですから、神の世界も不平等ですね。
ゼウスに処女を誓ったアテネに求愛する不遜な神もいないでしょうが、もしそんな神がいたら、アテネはこう言うでしょうね。
「ねえお馬鹿さん。あなた何か一つでも私に勝てることがおあり?なんなら勝負してみる?」
アテネはとにかく理不尽なほど異次元に強いです。アイギスの盾を持っているので、どんな攻撃も効きません。そして、勝利の女神ニケを従えているので、絶対に勝ちます。理不尽でしょう?

へパイストスの劣情
ここでまたまた登場するのが、ヘラの子にしてアフロディテの夫、鍛冶の神へパイストスです。妻アフロディテに裏切られ、侮辱されながらも、ヘパイストスは懸命に彼女への贈り物を作り続けます。しかし、捨てる女神あれば拾う女神あり。淫乱なアフロディテと粗暴なアレスを嫌っているアテネは、へパイストスに同情します。
「なんて哀れなの…」
アテネはへパイストスと親交を持ち、武具を作らせます。
しかし、アテネはそんな優しさが、へパイストスの卑しい劣情を刺激してしまっていることに気付かないんですね…。ある日アテネがへパイストスの鍛冶場を訪れたとき、ヘパイストスがアテネに迫ったが、不首尾に終わり、アテネの足を汚しただけだった、といいます。
こんな感じでしょうか。

「すてき。とっても上手よ。私、何をやっても誰にも負けない自信があるけど、鍛冶だけはあなたにかなわないわ。ねえ、今度は私にも、アクセサリを作ってくださらない?」
「はい、喜んで。」
「きっとよ。ねえ、へパイストス。私にくれるアクセサリは、誰に贈った物より美しくなくっちゃ駄目よ。ヘラ様や、あなたの奥様に贈った物より見劣りするようだったら、着けてやらないんだから」
「あなたは、母上よりも、妻よりも美しい。きっとあなたにふさわしい物を作ります。だからアテネ様、あなただけは、私を見捨てないでくださいまし…はぁ、はぁ、アテネ様…」
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
「はぁ、はぁ…アテネ様っ」
「なにするのよっ。やめなさいっ。やめなさいってのっ」
「あうっ」
「ったく。見下げ果てた男ね。この私にこんな無礼をした馬鹿はあなたが始めてよ。覚悟はいいでしょうね?」
「アテネ様…お許しを…」
「あはっ。立ち上がることもできないのね、その足じゃぁ…。ヘラ様に捨てられて、あの女に捨てられて、かわいそうな人だと思ってたけど、無理もないわね、そのざまじゃあ。」
「そんな…アテネ様ぁ…」
「許しを請うつもりがあるなら、その目障りなものをなんとかしたらどう?」
「こ、これは…」
「ふん、どうせ、あの女にもまともに相手にされていないんでしょう。」
「はい、実は、一度も…」
「ねえ、へパイストス。私の足、どうかしら。あなたの捻じ曲がった足と違って、綺麗だと思わない?」
「はいっ。とっても綺麗ですっ。母上よりも、妻よりも…」
「ふふっ。もう必死ね。あなた、処女神アテネに、生涯の純潔を誓いなさい。そうしたら、一生の思い出をあげるわ。」
「は、はいっ。誓いますっ。」
「まあ、誓わずともあなたの相手になる人なんていないでしょうけどっ。」
「あうっ、あうっ、あうっ、アテネ様っ、あうううっ」
「ふんっ、一人前に出るものは出るのね。汚らわしい。」
「はぁ、はぁ、アテネ様ぁ…。私は、女神ヘラを母に持ったことよりも、女神アフロディテを妻に持ったことよりも、処女神アテネの足で…」
「はいはいわかったからっ。それよりこの汚いのを何とかして頂戴」


…すいません、ちょっと暴走しました。
寡黙で心優しく、神々にも人々に愛された鍛冶の神ヘパイストス。マゾヒストにとっては、めちゃめちゃうらやましい神、といえそうです…。


アルテミス
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フランソワ・ブーシェ『狩りから帰るディアナ』
狩猟と純潔の女神。
ゼウスと女神レトの間に生まれました。
太陽神アポロンの双子の妹で、月の女神でもあります。
ローマ神話のダイアナと同一視されます。

純潔の犠牲者アクタイオン
アルテミスは父神ゼウスに純潔を誓います。
「アテネ様って素敵。私もああなりたいわ」
と思ったんでしょうか。はたまた
「ああ、お兄様…お兄様と結ばれることができないのなら、私一生男なんて知りたくないっ」
と思ったのかもしれません。
とにかくアルテミスの潔癖症は尋常でなく、侍女としている八十人の女神・ニンフたちにも固く処女を守らせ、これを犯そうとした者は残酷に罰しました。
もっとも有名な犠牲者が狩人アクタイオンです。
アルテミスと侍女のニンフたちが入浴中の泉に何も知らずに立ち入ってしまいます。ニンフたちは身を挺して女神の体を隠しますが、長身の女神の体を隠すことはできません。人の身で女神の体を見てしまった男、それが大罪であると知っていても、見惚れることしかできません。
即刻処刑です。女神はアクタイオンを鹿の姿に変え、五十匹の猟犬に襲わせます。アクタイオンはその場でズタズタに噛み裂かれて絶命します。
実はアテネにも同様の神話があります。テイレシアスという少年がアテネの沐浴を覗き見てしまうんですが、アテネは彼の視力を奪い、代わりに予知能力を与えるという比較的寛大な罰に処しています。アテネの慈悲深さと比較して、アルテミスの峻烈な気性が際立つ神話です。
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ジュゼッペ・ダルピーノ『ディアナとアクタイオン』

巨人オリオン
冬の夜空に浮かぶ巨人オリオンも、彼女の犠牲者だとされます。
なぜ犠牲になったかは、諸説ありますが、アルテミスがあまりにも巨人を寵愛したために兄アポロンがアルテミスの純潔を危ぶみ、夏の夜空に浮かぶ大サソリを使って巨人を海に追い込み、アルテミスをだまして、海に浮かぶ巨人の頭部を弓矢で射抜かせた、とも言われます。
アポロンとアルテミスの怪しいほどの兄妹愛から連想された説でしょう。
こんな感じでしょうか。

「アルテミス、オリオンを僕に引き渡せ。そいつはとんでもないやつだ。そいつは僕とお前の思い出の地、デロス島の僕の神殿で、エオスを手篭めにしたんだ」
「いやよ、お兄様。オリオンはエオスに誘われたと言っていたわ。あの淫売を罰すればいいじゃないの」
「それだけじゃあないんだ。そいつは野獣けだものだ」
「だいじょうぶよお兄様。ちゃあんと手なずけてあるんだから。私があんな木偶にやられるとお思い?」
「だけど…お前、どうしたっていうんだ。今まで男に狩りの供をさせたことなんかなかったじゃないか」
「そうね、でも雄の猟犬なら今までも連れてったわ。ねえ、お兄様、もしかして、私とあれに妬いてるの?」
「そ、そうじゃない。ただ俺はお前のことが…」
「あはっ。お兄様、夕焼けでもなにのに顔が真っ赤だわ」

また、巨人が女神の寵愛をいいことにその純潔を犯そうとしたため、女神自ら大サソリと弓矢で処刑した、という説もあります。
処女神アルテミスと、地上で大暴れした巨人オリオンの組み合わせは、『家畜人ヤプー』の女神ドリスと畜人馬アマディオを思わせます。
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プッサン『盲たるオリオンのいる風景』


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タグ : 家畜人ヤプー沼正三谷崎潤一郎マゾヒズムある夢想家の手帖から三者関係寝取られ白人崇拝アフロディテアルテミス

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