谷崎潤一郎作品に出てくる食べ物
谷崎が一番好きなものは「若く美しい男女の容貌・肉体」ですが、二番目に好きなものはおそらく「旨い物」です。それから、「正午近くまでぐっすり寝ること」も好きです。本当にこの人は「文才のある豚」であるな、と思いますね。
『少年の記憶』
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十歳 になつた正月、私は初めて、お節の煮〆 の中にある蒟蒻を喰つた。私はツルツルした蒟蒻の肌を珍しさうに舐めて見たり、口腔 へスポスポと吸ひ込んで舌に含んで見たりした。さうして、物体の形状から予め想像して居た通りの味である事を知った。人間の好む食物には味覚の快感を第一の条件とする物と、触覚の快感を第一の条件とする物と、二つの種類のあることも知つた。其れ以来、私は蒟蒻が大好きになつた。
・うに、塩辛、唐墨、納豆
『恋を知る頃』
・お萩
・お重の鰻
『熱風に吹かれて』
・鯉のあらひと水貝
・苺牛乳
二人は中央の桑のテーブルに寄りかヽつて、牛乳に苺の実を砕いた西洋皿を間に置きながら、洋銀の匙で薄桃色の汁をすヽつて居たが、湯上りの浴衣がけの姿と云ひ、周囲の色彩との調和と云ひ、何となく芝居の舞台のやうに水際立って、なまめいて見えた。
・氷水、アイスクリーム、苺、パイナツプル、夏
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『お艶殺し』
・天ぷらそば
『華魁』
・こはだの鮨
由之助は
嘗 て同輩の一人から、こはだの鮨をお馳走になつたことがありました。
「どうだい由どん、此れは湊橋のあづまずしだが、やつぱり彼処 の物はうめえな。まあ此のこはだを喰つて見ねえ」
かう云つて其の同輩は頻りにあづまずしの美味な事を褒めました。
「さうかなあ、そんなに此れがおいしいかなあ。僕なんざあ、何処の鮨でも同じやうな味がする」
喰べてしまつてから、由之助がこんな返事をすると、同輩は肩を聳 やかして、
「ちょツ。味のわからねえ人間にうまい物を食わせても張り合ひがねえや」
と云いました。
・塩辛、うに、このわた、くわゐ、うど、にんじん
・牛肉、豚肉、鰻の蒲焼
『神童』
・ひじき
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・鳥のそぼろ
・からすみ、うに、うるか、このわた
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・沢庵、刻みずるめ
・おしるこ、うで小豆、すゐとんのお露、今川焼き
・新杵のカステラ、清寿軒の
・バナヽ、水蜜
・天ぷらそば
・アイスクリイム
・茶碗蒸し
或る時は又「此れも奥様のお余り」だと云う食ひ残りの茶碗蒸しを夕飯の膳に供せられた。どんな精巧な料理法で拵へたものか分からぬが、茶碗の中には春之助の大好きな鶏卵の濃い汁が、さもおいしさうにこつてりと凝り固まつて、底の方にはあなごだのくわゐだの蒲鉾だのが堆く密閉されて居る。それを一つ一つ箸で掘り出して汁と一緒に口の中に含んで見ると、あまりの美味に恍惚として、此のまゝ一と息に
嚥 み下すのが惜しいやうな心地さへする。全く彼は生まれてから一遍も、こんなにうまい卵の料理を味はつたことがなかつた。玉子焼やオムレツの味などは此の茶碗蒸しと云う物に比べると、到底もとにも及ばない。
・シュウクリイム
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『鬼の面』
・ハムライス、カキフライ、カツレツ
・シュウマイ
・屋台の天麩羅
・ビフテキ
・おでんの信田巻
・冷や飯の茶漬け、
『或る男の半日』
・マンゴウ
・パイナツプル
『詩人のわかれ』
・豆腐
・鰻
・ライスカレ
・むつの子
・あひ鴨
・赤貝
・幕の内
『異端者の悲しみ』
・牛肉
『晩秋日記』
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『女人神聖』
・甘泉堂の小豆
・大黒屋の鰻
・栄太楼のもなか
『襤褸の光』
・焼芋
・おでん
彼は女を誘つて、花屋敷の傍の屋台へ這入つた。二人とも一と串か二た串たべて止める積りで居たけれど、鍋の中から旨さうに煙の出て居る様子を見ると、飢ゑに迫られて居る二人は、とても我慢することが出来なかつた。がんもどきだの、こんにやくだの、焼き豆腐だの竹の串から落ちさうにしてとろとろ茹だつて居るものを、彼等は夢中で五つ六つづゝ頬張つた。
『金と銀』
・牛鍋
すると大川が「よし」と云つて早速ロースを一斤か、或ひは一斤半ぐらゐ注文する。水こんろの鉄鍋の上で、どろどろのセピア色に煮つまつた肉の塊を、温かい飯と一緒に舌へ載せながら、はつはつと馬のやうな息を吹き吹き、口の中がくちやくちやになるほど噛みしめたらどんなにうまいだらう。
・天どん
・資生堂のプレイン、ソオダ
・カフエ、ヰ゛エナのシユウクリーム
・ちん屋バアの洋食
・精養軒のアイスクリーム
『小さな王国』
・竹の皮に包んだ餅菓子
『嘆きの門』
・林檎、バナヽ、
が、少女は別段何とも思はなかつたらしく、平気で水蜜の喰ひかけを、飴を舐めるやうにビシヨビシヨとしやぶつて居る。果物の
實 の間から、清水の湧くやうに滾々 としたゝる汁が、繊麗な彼女の両手の指の股を傳 はつて、赤い血管の透いて見える生白い手の甲を、涙の如く流れて行つた。
『柳湯の事件』
・アイスクリーム
・蒟蒻、
『美食倶楽部』
・すつぽんの吸ひ物
・鯛茶漬、
・今川焼、
・蛤、蠣、絹ごし豆腐
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『母を恋ふる記』
・御飯、おみおつけ、お魚
・天ぷら
『蘇州紀行』
・醋溜黄魚、炒山鶏、炒蝦仁、鍋鴨舌、冷菜、口蘑湯
『秋風』
・鮭の缶詰
・橡の實
お茶と一緒に黄な粉の附いた真黒な餅を出されたので、一つ摘まんで見ると普通の餅よりは柔かで味はもろこしに似て居るけれど、しかしやつぱりもろこしとも違つて居るらしい。「それは
橡 の實でございます。」と爺に云はれたが、橡の實を喰ふのは誰も生まれて始めてゞあつた。「うまい、うまい」と云いながら三人とも珍しさうに其れを頬張つて、折に一杯這入つて居た奴を見る見るうちにペロリと平げてしまつてから、
「さあ、行きませう。」
と、口の周りの黄な粉を拭きながらS子が真先に立ち上がつた。
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