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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

『ある夢想家の手帖から』全章ミニレビュー 第1巻「金髪のドミナ」

沼正三の長大なエッセイ集『ある夢想家の手帖から』につき、全章をミニレビューをつけて紹介していきます。
入手できた挿画、関連する画像を合わせて掲載します。


第一章
夢想のドミナ
マゾヒストにとっての理想の女性像を、ギリシア神話の女神を用いて考察します。
こちら↓をご参照ください。

谷崎と沼のヒロイン像 

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ヴィンターハルター画『エリーザベト皇后』                エギディウス・ザデラー『女の雄武』(女神アテネ)

第二章
馬上の令嬢
以降六章は「馬」について。
アルテミス(ダイアナ)型のドミナの一典型として、乗馬をたしなむ上流階級の令嬢を考察します。

第三章
愛の馬東西談
人間馬を扱った東西の古典説話を紹介します。
こちら↓をご参照ください。

沼正三のスクビズム(1)―『手帖』第三章「愛の馬東西談」~アリストテレスの馬

第四章
ナオミ騎乗図
谷崎潤一郎『痴人の愛』の人間馬場面を徹底考察。二次創作付きです。

第五章
侯爵令嬢の愛馬
エミール・ゾラ『一夜の情を求めて』を紹介。
ある公爵令嬢が二人の青年をそれぞれ馬と犬に馴致し、彼らを踏み台に幸せを掴むシンデレラ・ストーリー。

第六章
生きた玩具としての人間馬
『あるロシアの踊り子の回想』という小説を紹介。小公子小公女による、領民の子女を玩具とした雅な遊びをたっぷりと。「両脚型」の人間馬が登場します。

第七章
人間馬による競馬
L・ゴーテの『鞭打つ女たち』を紹介。欧州貴族が米大陸の奴隷に転落し、転々と売られ酷使されます。「補助車型」の人間馬が登場します。

第八章
転生願望と畸形願望
畜生への転身(変形)・転生(生れ変り)願望、その派生としての畸形(先天的な身体障害)願望について、三点の小説を紹介。
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『ディアナの狩猟』作者不明。十六世紀末。
モデルはアンリ2世の愛妾ディアーヌ・ド・ポワチエ。


第九章
生身堕在畜生道
ある大学生の投書を紹介。隣家の英国夫人の飼い犬になりたいという願望から、自ら不具(後天的な身体障害)となり、隣家夫婦に飼養され、奴隷、犬、便器と、ありとあらゆる願望をかなえる計画が綴られています。
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グレース・ケリー

第一〇章
ある夢想家の哀願
あるドイツのマゾヒストが女主人に送った手紙を紹介。前章同様、「犬派」と「便器願望」の強い結びつきが示されています。

第一一章
西洋人への劣等感
以降一〇章が、「沼の沼たる所以」といえる部分。
①「西洋文明の絶対的優越」、それによる②「日本人の中の西洋文明への劣等感」、そしてそれによる③「日本人の白人の肉体への憧憬」を論証します。
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女優:ブリジッド・バルドー                             女優:ミレーヌ・ドモンジョ

第一二章
象徴としての皮膚の色
遠藤周作『アデンまで』を紹介。フランス女性と交際した日本人の主人公は、恋人と裸で抱き合っている姿を鏡に映した像を見たことにより、恋人の白い肌と自身の黄色い肌、その美醜の絶望的な隔絶に気づき、苦悩します。
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グイド・レニ『ミカエル』 白人種の美少年がモンゴロイドの男を屈服させる構図は、 女優:ヴィルナ・リージ ※『手帖』掲載とは別の画像
ドイツで黄禍抑圧のシンボルとされた。


第一三章
ブロンドの優越
白人種の中でも、金髪碧眼ブロンド北欧人種ノルディッシュが、いかに優秀で、支配的な種族であるかを論証します。そして、有色人種にとっては、北欧人種は、いっそう絶望的な劣等感を抱かせる、とします。
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 ルーカス・クラナッハ『ユーディット』                   パオロ・ヴェロネーゼ『ユーディト』
ヘブライ神話の女傑でありながら、ルネサンス絵画ではブロンド女性として描かれ、敗れた敵将は異人種として描かれている。

第一四章
白人崇拝
前三章で説いた日本人の白人に対する劣等感が、マゾヒズムと結びついた、「白人崇拝ホワイト・ワーシップ」について。日本人のマゾヒストが理想の女神としての白人女性、支配者種族としての白人種全体を崇拝する傾向を、谷崎の諸作品、「奇譚クラブ」などに掲載された諸作品を用いて論証します。

第一五章
有色人種家畜観
視点を逆転させ、白人種が有色人種を潜在的に畜類視していることを論証。カルル・チャペクの『山椒魚戦争』を紹介。
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ヴァン・ダイク「ニコラ・カッタネオ侯爵夫人エレーナ・グリマルディ」

第一六章
家畜化小説論
一対の男女が、どのような関係になっても、合意に基づくSMプレイの範囲内である。支配者または被支配者が複数になっても、小異に過ぎない。公然と陵辱されるためには、優劣二階級を設定し、劣等階級を奴隷、さらには人間家畜とする制度化空想こそ理想のマゾヒズム小説である、とします。そして、日本人マゾヒストにとって、有色人種を白人種の家畜とする空想小説こそ、最終最高の表現であると断言します。

第一七章
混血への妄想
敗戦後、日本が米国の属領となった妄想。日本人は土民として白人に徹底的に差別されますが、日本女性が白人男性に孕まされて生まれた混血児は、土民よりも優遇されます。このため、日本女性は積極的に白人男性の子種を宿そうとし、家族ぐるみでそれを手助けします。日本民族は、少しでも白い血を子孫の体内に交えることを、最大の目標にします。
この、白人崇拝と結びついた歪みきった願望が、沼の三者関係の特徴です。

第一八章
ある植民地的風景
ある日本人の女の子の作文を紹介。アメリカ人の男の子と一緒に遊ぼうとして「外人ハウス」に行ったところ、男の子小便をかけられたというもの。なぜこれに昂奮したのかを内省して解説。
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ポンペイ壁画。イルカを鞭打って車を輓かせているキューピッド。

第一九章
輓奴車競争
L・ゴーテの『鞭令嬢』を紹介。奴隷制時代の米国南部の大農園で、大地主の令嬢がドイツ人青年の資産を奪い、奴隷に馴致します。奴隷に輓かせる馬車が登場。

第二〇章
人力車夫
植民地で生まれ、日本に輸入されて定着した人力車について。

第二一章
召使い願望と侍童願望
マゾヒストの変身願望について、精神医学者:ヒルシェフェルトが分類した五類型を紹介。
五類型については、こちら↓をご参照ください。

谷崎のスクビズム(3)―『捨てられる迄』論~堕ちていく快楽、委ねる快楽

この五類型うち、召使い(家内奴隷)願望(セルヴィリズム)が、マゾヒズムの「入門的段階」であるとします。さらに、セルヴィリズムから女主人との肉体的交渉を排除したものを、侍童(子供の召使)願望(パジズム)とします。

第二二章
奴隷志願
召使願望者セルヴィリストが女主人に宛てた手紙を紹介。

第二三章
ある派出夫会の設立案
召使願望者セルヴィリストが願望を実践するための一案。召使願望者の家事労働者を派遣する会社を設立。重役・株主は全て女性。女性社員は派出夫要員を訓練して高給受け取る…などなど。

第二四章
昔の嬶天下
男尊女卑の風潮の中、妻に従属して家事に従事する夫を揶揄した中世・近世欧州の詩を紹介。

第二五章
エプロン亭主
妻が外で働いて家計を支え、家事労働に励み、家内で妻に奉仕する、新しい夫婦像を描いた小説・詩を紹介。

第二六章
妻による夫の虐待
前章の仲睦まじい夫婦像とは異なり、妻が夫を苛烈に虐待し酷使する小説を紹介。
太宰治について、『男女同権』を紹介したうえで、「この詩人も紛うようのないマゾヒストである。」と断言。

第二七章
女のズボン
女権拡張の象徴として、男性的な精神を持ったアテネ型の女性への憧憬として、また中性的な美への愛慕として、女性の男装にマゾ的効果があることを指摘。

第二八章
性的隷属の王侯たち
傾国の美姫への君主の性的隷属現象について。
・東ローマ帝国の大将軍ベリサリウスと妻アントニナ
・仏王ルイ十五世とデュバリ伯夫人
・パバリア(バイエルン)王ルトヴィヒ一世とスペイン舞姫ローラ・モンテス
・セルビア王アレクサンドル一世とドラガ王妃
・唐の高宗と則天武后
・夏の桀王と末喜
・殷の紂王と妲己 
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ローラ・モンテス                         若き日のドラガ王妃 ※『手帖』には掲載なし

第二九章
男性の衰微
男女同権が進み、あらゆる分野で女性が男性と同様の成果を挙げる状況を紹介。

第三〇章
女権国家の夢想
男女同権を通り越して、女性が支配する国家、世界を描いたSF作品を紹介。また、女性支配の正当性の根拠として、肉体的、精神的に男性よりも女性のほうが優れているとする説を紹介します。
さらに付記にて、「奇譚クラブ」に掲載された、田沼醜男による『タツノオトシゴ考』という小説を紹介。

日本が白人国家の属領となった世界で、日本人男性は妻に従属している。日本人男性は咽喉部を人工子宮に変える施術を受けており、妻が白人男性の種を宿したの受精卵を、夫の顔に跨り排卵することにより、夫は激烈な苦痛の末、妊娠する。従順な白人崇拝度の高い男性は、金髪女性の雪白の股に顔面騎乗され、白人夫婦の愛の結晶を口腔に下賜される恩典に浴すことができる。白人夫婦が堕胎するつもりの場合は、日本人男性が里親として白人子女を養育する。白人夫婦が自ら養育する場合は、妊娠後に四肢を切断され、眼を抉られ、耳や鼻をそぎ落とされ、「ボックス」と呼ばれ、生きた孵化器として玉のような白人の胎児を養育する。
沼は本作を絶賛し、「ボックス」が新生児の哺育器となって白人の乳児の排泄物いっさいを始末する…などと、妄想を膨らませています。



第三一章
鞭を忘るるな
二〇世紀初頭に活躍した女性運動家グレーテ・マイゼル=ヘスの説を紹介。第二四章以降の「妻が一家を支え、夫が家事に従事する」という夫婦像とは異なり、妻が支配的であっても労働はあくまで夫が行う、中世騎士道的夫婦像。
フリードリッヒ・ニーチェについて、求婚を拒絶されたルー・ザロメに対してマゾヒスティックな感情を抱いていた可能性を指摘しています。
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左からルー・ザロメ、フリードリッヒ・カール・アンドレアス(後のザロメの夫)、        ルー・ザロメ※『手帖』には掲載なし
フリードリッヒ・ニーチェ。ニーチェの発意で撮影された。 
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コメント

読むこともままならないとは、厳しいですね…

『手帖』は98年刊行の「抄録」しかもっていないので、これは図書館で借りてきて書いています。

妄想は頭のなかにたくさんあるのですが、それを文章にするのはなかなか難しいですね。
私は絵が下手で、小説もうまく書けないので、いまの「紹介と解説」を中心にした内容で、みなさんの妄想ライフの助けになれればうれしいと思っています。

そのなかで、二次創作も、思い付きの妄想ネタも臆せずにどんどん書いて発表し、みなさんに批評してもらいたいと思っています。

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