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マゾヒズム文学の世界

谷崎潤一郎・沼正三を中心にマゾヒズム文学の世界を紹介します。

『神童』の二次創作

谷崎潤一郎『神童』の二次創作です。


登場人物
瀬川春之助…十五歳。(旧制)中学校四年生。「神童」と呼ばれる秀才。経済的事情のため、井上邸に令嬢鈴子、子息玄一の家庭教師として住み込んでいるが、実態は奉公人のように扱われている。
井上鈴子…十六歳。女学校の二年生。井上家の令嬢で、お町夫人の子。


残暑の厳しい秋の午後であった。
春之助は彼にあてがわれている六畳の間に寝転んで何か熱心に読んでいた。
「瀬川さん、何を読んでいらっしゃるの?」
声をかけるが早いか、鈴子がずかずかと部屋に入ってきた。白地に夏の花をあしらった浴衣を着て、両手にはガラス製の西洋皿を二つ持っていた。
「やあ、鈴子さん」
春之助は慌てて読んでいた本を閉じて、本棚に戻した。
「そんなに慌てて隠さなくってもよくってよ。どうせ私には分からないような難しい御本なのでしょうから」
鈴子は春之助の狼狽を嘲るようにこんな皮肉を言った。

このところ鈴子からは、以前のような春之助に対する尊敬の情は微塵も感じられなくなっていて、まったく馬鹿にしきっているようであった。春之助は、その原因が自分のほうにあることをよく理解していた。
今や春之助は、夫人のお町や令嬢の鈴子を以前のように、その無学ゆえに心密かにさげすむことはできなくなっていた。むしろ彼らのなまめかしい肌や、みずみずと伸びた手足や、夕顔のように涼やかな容貌を見せられるたびに、自分のようなみすぼらしいぼろ書生が、この天女のような人々と一つ屋根の下に暮らしている光栄を思わないではいられなかった。最近では、居間や主人一家の居室があるこの家の二階が、雲の上の天国のように感じられ、足音や笑い声が聞こえるたびに、どきりとして耳を澄ませていた。
春之助のそのような卑屈な気持ちは、鈴子を前にしたときの態度に、最も顕著に出現した。どうしても以前のように堂々と直視することができず、常に目を伏せて、そのくせ手やら、足やら、首筋やらを盗むようにちらちらと見るのである。鈴子は、その博学に感服し尊敬していた春之助の態度がそのように変化したことに、幻滅と軽蔑を感じるとともに、少なからず満足と愉快を覚えたようであった。
鈴子は弟と机を並べて春之助の前で学校のおさらいを全くしなくなった代わりに、たびたび春之助の部屋に闖入しては、ちょっかいをだして小一時間遊んでいくようになった。春之助が玄一に授業をしていようが、熱心に勉強していようが一向に構わなかったが、春之助から小言一つ言われたことはなかった。
鈴子は次第に増長して勝手に本棚を漁ったりした。最近春之助の読書傾向が怪しからぬ方向へ変わってきているのにも、どうやら気づいているらしかった。
また、わざとらしく足袋を脱いでみたり、足を蚊に刺されたといって見せ付けたりして、春之助の怯えた子犬のような態度と、瞳の奥の燃えるような輝きを観察して楽しんだ。
またあるときは、湯上りの体を春之助に団扇で扇がせた。このときは気に入りの香油をいつもより余計に髪に含ませていたらしく、その効果を、春之助の酔うような表情で確認したようだった。
春之助は鈴子が少しずつ自分の自尊心に攻撃を加えて楽しんでいるのが分かっていたが、全くそれを防御しようとしなかった。しかし一方で、傷ついた自尊心を自ら放り出して、鈴子の足元に身を投げ出してひれ伏してしまう勇気もまた、持ち合わせていなかった。

「今日はね、瀬川さん。たいそう暑いものだから、御三時にアイスクリームをいただいたのよ。私、瀬川さんにも食べていただこうと思って、少し残して、こうして持ってきたの。ほら、母さんも少し残していたから、それも持ってきたわ」
春之助は血が逆流したのではないかと思うくらいにときめいた。
鈴子が持っていた二つの西洋皿には、食べかけのアイスクリームがひとすくいばかり入っていて、匙が添えられていた。象牙細工のような鈴子の手に支えられた器の透明な輝きと、銀匙の光沢と、なによりねっとりとした白い固まりのなまめかしさが、春之助を魅した。

このところ、春之助は、お町の食べ残しを施される機会が減ったことを悲しく思っていた。お町に小遣いをもらうよりも、食べ残しを施されることをより強く望むようになっていた。どうかすると、お町を目にするたびに、かつて貪った、茶碗蒸しだの、鰻の蒲焼だの、パイナップルといった「奥様の残り物」の味がよみがえった。夫婦の食事の下げ膳が台所に運ばれる時分になると、そわそわして台所の様子を伺っていたりしていた。春之助は、そんな気持ちがお町に通じまいかと祈るように念じたが、まさかそれが鈴子に通じるとは思ってもみなかった。
思えば、春之助に最初に施された「奥様の残り物」が、アイスクリームであったが、あのとき口にしたアイスクリームの衝撃的な甘みが、尊大で傲慢だった春之助の心を、少しずつ蕩かしていったように思われた。いや、もっと正確には、春之助の心をとろかしたのは、アイスクリームの甘みというよりも、そこにわずかばかり付着していたお町の唾液の甘みであっただろうということを、春之助は認めないわけにはいかなかった。

「さあ、これは母さんの食べ残しよ。召し上がれ。」
鈴子は春之助と差し向かいに座り、二つの器を畳の上に置いて、何を思ったか、自ら銀匙で中身をすくい、春之助の口の前に突き出した。
春之助は息を飲んで、目の前に突き出された白い固まりを見つめた。その滑らかな光沢は、嫌でもお町の瑠璃のような肌を連想させた。そのむこうでは、鈴子が小首をかしげ、愉快そうに目を輝かせていた。鈴子はどういうわけか今日に限って、お町の気に入りの、梅花の香油を髪に含ませているようであった。
なるほど鈴子は今日、わずかに残った俺の尊厳を完全に踏み潰しに来たのだな、と春之助は思い、断崖絶壁に立ったような気になったが、不思議と恐怖感はなかった。春之助は口を開き、吸い寄せられるようにして、銀匙を咥えた。
なつかしい甘みが口に広がり、全身が蕩けていくような快感が春之助を包んだ。あごが上がり、酔うように目を細めた春之助をみて、鈴子は我慢しきれずに吹き出してしまった。
「うふふふふ。とってもおいしいでしょう」
春之助は鈴子が銀匙を口から引き抜いたときの感触にさえ、快感を覚えた。
「これは私の食べかけよ」
もう一つの器からも、鈴子は同じように中身をすくって春之助の口の前に突き出した。
春之助は依然快楽に酔った阿呆のような表情のまま、口を開いて銀匙を咥えた。
再び甘みが全身に広がっていくにつれ、春之助は、今まで自分の体を支配していたお町の唾液に代わって、鈴子の唾液に全身が占領されていくのを感じた。これも鈴子の意図した通りなのだろうかと思うと、自分の意思よりも、鈴子の意思によって体が反応しているのが面白かった。
春之助はあざとくも、また鈴子が銀匙を引き抜くときの感触を楽しもうと期待した。
すると、その心を読んだかのように、鈴子は春之助の目を覗き込んだまま、ゆっくりと銀匙を引いた。春之助は全神経を舌と唇に集中させて銀匙に吸い付かせ、摩擦の快感を貪った。
と、唇から銀匙の丸い先端部が半分ほど覗いたところで、鈴子はぴたりと手の動きを止めた。そして、銀匙を再びゆっくりと口の中に差し込んでいった。うっとりと目を細めていた春之助は驚いて目を見開き、鈴子の表情を窺ったが、鈴子は相変わらず愉快そうにその反応を観察している。銀匙でrapeされるのだと知り、春之助は今更恐ろしくなったが、ゆっくりと挿入される銀匙が、唇と舌を摩擦する快感に、再びとろんと蕩けるような表情に戻ってしまった。

銀匙が三度春之助の口の中を往復し、四度目にゆっくりと挿入されているとき、春之助はついにejaculateしてしまった。鈴子は自分の微量の唾液と僅かな手の動きが少年に性的満足を与えたことを確認したようだが、なおも手の動きを止めなかった。春之助は必死に銀匙を咥えていたが、体に力が入らないらしく、頭がふらふらとぶれてしまっていた。
鈴子は春之助の前頭部に左手を置き、指に髪を絡めて掴み、頭を固定してやった。春之助は赤子が母を慕うように、鈴子の顔を見上げた。鈴子は春之助の瞳にいったん静まった浅ましい情欲の光が再び灯るのを認めた。それは、左手の指に力を加えるほど、輝きを増すようだった。
鈴子はふと、今自分の掌中にあるこの頭脳に、計り知れない学識が詰まっていることを思った。その頭脳が今は、自分の両手から与えられる刺激を貪ることに駆使されていることを思うと、愉快でたまらなかった。

その後、鈴子は春之助が四回目の絶頂に至ったのを確認すると、ようやく春之助を解放し、部屋を出て行った。その間に春之助は、鈴子が持ったまま動かさない銀匙を咥えて自ら頭を動かして出し入れさせられたり、引き抜かれた銀匙を犬のように舐めさせられたり、床に置かれた器を舐めさせられたり、さんざん卑猥な芸を覚え込まされた。
春之助は鈴子が出て行った後も、呼吸が落ち着くと、圧倒的な快楽の余韻に飲み込まれるように、置いていかれた銀匙や西洋皿を、いつまでもいつまでも狂ったように舐っていた。
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