父の車で 3/3
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あるとき、ついに母が父と私を棄てる日が来てしまった。
母はあるベンチャー企業の社長と婚約し、婚約者の高級マンションに同居するようになった。
これで父と私は原罪から将来に向かって解き放たれることになる、はずであった。
それでもなお父は、母が父を足下に侍らせてくれていた時間を可能な限り贖おうとしていた。
母は、美大生の彼とは別れていたが、まだ婚約者の他に何人か若いモデルの恋人がいたし、その後も絶えることがなかった。
母は婚約者の財産を自由に出来るので金には困らないが、さすがに他の恋人に融通するわけにはいかない。
これまでも父は母の命ずるまま、母の恋人に金銭を融通していたが、父は母に棄てられてからもそれを続けた。
あるとき、母の新しい恋人にマンションと高級車を買い与えることになった父は、自宅を売却してなんとか購入資金を捻出できるぎりぎりの物件を見つけて、彼は気に入ってくれたのだが、新しい生活で金銭感覚が変わってしまった母は承知しなかった。
「ダーメ。あなた、彼のこと馬鹿にしてない?わかった、あなたにも彼のスゴさを教えてあげるから、わかったらちゃんと彼にふさわしい物件を用意してよ」と言って、高級ホテルで彼と愛し合う姿を父に拝ませた。
父はその後数週間かけて探した高級マンションを母と彼に見せ、承諾をもらった。
父は自宅の売却益に加え、父が3割保有していた祖父の会社の株式を大手の同業者に売却して資金を調達して自分の名義でマンションと高級車を購入して鍵を彼に渡し、残った数千万の金も残らず彼に貢いでしまった。
その後、母は父に金がなくなったのを知ってからか、父に声をかけなくなった。
家と職と貯金を失った父は、日雇い労働をしながらわずかに残った父の車で車上生活をして私を育ててくれた。
父と車で生活した日々も、また夢のように楽しかった。
毎日ラジオで野球中継を聞いた。
ニュースを聞いて政治家の悪口を言った。
風呂は銭湯へ行った。
毎週母がモデルをしている雑誌を買ってきて、車の中で2人で狂ったように自慰をした。
父は高級ホテルで見た母と彼のsexのことを何度も話してくれた。
「綺麗な2つの体が交わって、まるでスポーツみたいなさわやかなsexだっなあ、それにすごくいい匂いがした」
「母さんはいつもいい匂いじゃない」
「ああ、でももっとねっとりと気が遠くなるような高貴な匂いだった」
「薬は使ってた?」
「たぶんな、快感が増幅されるんだろう」
「それで…父さん、彼の精液舐めさせてもらえた?」
「ああ、コンドームにたっぷり入ったやつを投げてもらった。私も一晩中2人のフェロモンを浴びて感覚がおかしくなってたんだろうが、もうその時には母さんをあそこまで喜ばせる精液はどんなだろうと思って、舐めたくて舐めたくてしかたなくなっていて、口に入れた瞬間、ねっとりと苦くて、芳ばしくて、とろけるようにうまかったんだ。母さんの言ってた「彼のスゴさ」を心底わからせられてしまったよ。それからしばらく、彼のために物件を探しているときも、費用を工面しているときも、何度も口の中にその味の記憶がよみがえってきて、あの一口の精液のお礼ができればって気持ちでいっぱいで、そのためならなんにも惜しくなくなってたんだ」
その夜、sexとdrugで昂ぶった母は父に彼の精液のたっぷり入ったコンドームを投げ与えて、父にこんな"誘導尋問"をしたのだそうだ。
「彼の精液はどう?」
「はい、とってもおいしいです」
「彼のスゴさがわかった?」
「はい」
「彼の子種がつまった一滴の精液と、あなたのあの息子の命、どっちが価値がある?」
「はい、もちろん彼の精液です。比べることも畏れ多いことです」
「ここまでしてもらわないと彼のスゴさがわからなかったことを反省する?」
「はい、反省します」
「彼にショボい物件をあてがおうとしたこと反省する?」
「はい、反省します」
「朝になったら彼にふさわしい物件を探しに行かないとね」
「はい、もちろんです」
「どうしてあなたが彼のマンションを探しに行くの?」
「はい、本物のsexを見せていいただいて、精子を舐めさせていただいたお礼です」
「じゃあ私たちは、朝まで後半戦を楽しむから、よーく味わいながら見て反省してね」
それを聞いて、私も彼の精液の味を想像して、生クリームをコンドームにつけて舐めたりした。
楽しかった車上生活も私が中学3年になったある日終止符が打たれた。
父はいつものように車をでて仕事に行き、そのまま帰らなかった。
私は新聞配達をしながら高校に通い、今はなんとか大人として暮らしている。
そうだ、父はもういない。
ということはつまり、やはりこれは夢だ。
遠い日の記憶だ。
公園のベンチの前に平伏した父と私の上を、中型犬が歩いている。
母と若い恋人は、すぐに立ち去るつもりだったようだが、犬が遊びたそうなので、しばらく留まることにしたらしく、ベンチに腰かけた。
目の前に腰かけている若者は、父がマンションを貢いだモデルでもなく、また新しい母の恋人らしかった。
睦まじい会話が聞こえ、やがて会話が途切れ合間に静かに唇を重ねる音がした。
父も私も、懐かしい気持ちに包まれた。
父は私の前からいなくなる直前、私を連れて母に会いにいったのだ。
このとき父が母の恋人に何を供与し、その金をどう工面したのかは今でもわからない。
確かなのは、父はその命と引き換えにその金を工面した、ということだ。
彼が答礼してくれる前に母が彼に小声で耳打ちしていたのが、父が彼に貢いだプレゼントの内容だったのかもしれない。
「犬の散歩コースの途中、彼といっしょに公園で答礼してあげる。夢みたいでしょ?」
新しい彼に対するプレゼントをしようと思った母が、忘れ去っていた父を思い出してそう持ちかけたのかもしれない。
確かに、このときの父と私にとってはまさに夢のような誘いだった。
現に父も私も一撃で射精してしまった。
夢みたいなのは、散歩の途中に人の頭を蹴る、たったそれだけの行為で多額の利益を得ることができる母と彼のほうではないか、と思われるかもしれないが、それは違う。
人には、他人に幸福を与えられる人と与えられない人がいる。
前者をA群、後者ををB群とすると、A群に属する人達は、A群に属する人達同士で互いを幸福にしながら睦ましく生きていくことができる。
一方B群に属する人達は、互いに幸せを与えることができないから、どうしてもA群に属する人達を求めてしまう。
A群に属する人達は簡単にB群に属する人達を幸せにしてあげることができるが、A群の人々にはB群の人達に関わるメリットは本来ない。
ここで、B群の人達がA群に属する人達に対する礼儀を尽くして、なんらかのメリットを供与することができれば、A群の人達に幸せにしてもらえる可能性が生まれる。
B群の人達が幸せになるためにはこの方法しかないのだということを、B群に属する父はよく知っていたし、A群に属する母もまた、それをよく理解していた。
母と父の関係は、そういう理解に基づいた関係だった。
犬のジョンは遊びに飽きたらしく、母の足下にじゃれついた。
「いきましょ」
母と彼はベンチから立ち上がった。
本当にこれが最後の別れだ。
もういちど答礼してくれることを祈ったが、コツコツとサンダルの音を立てて、あっさりと2人と1匹は立ち去ってしまった。
母と彼はすでに義理を果たしたのだ。
母はもう、父と私のことを思い出すこともなくなるだろう。
父と私はそのまま一時間ほど平伏していた。
やがて顔をあげ、ベンチににじり寄り、母と彼が座っていた部分に顔をうずめた。
もう温もりも匂いも残っていなかった。
父と私は泣きながら自分の手で性器をいじり、狂ったように自慰に耽った。
思うさま精液を吐き出した後、しばらくして父と私はのろのろと起き上がって服を着て、公園を後にした。
銭湯に行って、安い小さなラーメン屋でラーメンとチャーハンを貪り食い、上機嫌に酔っていた隣の席のおじさんにタバコを2本もらって1本ずつ吸った。
おじさんはジャイアンツファンらしい。
ブラウン管の小さなテレビの中では、斎藤がオレンジのぬいぐるみを抱えて今日の完封劇を振り返っていた。
あるとき、ついに母が父と私を棄てる日が来てしまった。
母はあるベンチャー企業の社長と婚約し、婚約者の高級マンションに同居するようになった。
これで父と私は原罪から将来に向かって解き放たれることになる、はずであった。
それでもなお父は、母が父を足下に侍らせてくれていた時間を可能な限り贖おうとしていた。
母は、美大生の彼とは別れていたが、まだ婚約者の他に何人か若いモデルの恋人がいたし、その後も絶えることがなかった。
母は婚約者の財産を自由に出来るので金には困らないが、さすがに他の恋人に融通するわけにはいかない。
これまでも父は母の命ずるまま、母の恋人に金銭を融通していたが、父は母に棄てられてからもそれを続けた。
あるとき、母の新しい恋人にマンションと高級車を買い与えることになった父は、自宅を売却してなんとか購入資金を捻出できるぎりぎりの物件を見つけて、彼は気に入ってくれたのだが、新しい生活で金銭感覚が変わってしまった母は承知しなかった。
「ダーメ。あなた、彼のこと馬鹿にしてない?わかった、あなたにも彼のスゴさを教えてあげるから、わかったらちゃんと彼にふさわしい物件を用意してよ」と言って、高級ホテルで彼と愛し合う姿を父に拝ませた。
父はその後数週間かけて探した高級マンションを母と彼に見せ、承諾をもらった。
父は自宅の売却益に加え、父が3割保有していた祖父の会社の株式を大手の同業者に売却して資金を調達して自分の名義でマンションと高級車を購入して鍵を彼に渡し、残った数千万の金も残らず彼に貢いでしまった。
その後、母は父に金がなくなったのを知ってからか、父に声をかけなくなった。
家と職と貯金を失った父は、日雇い労働をしながらわずかに残った父の車で車上生活をして私を育ててくれた。
父と車で生活した日々も、また夢のように楽しかった。
毎日ラジオで野球中継を聞いた。
ニュースを聞いて政治家の悪口を言った。
風呂は銭湯へ行った。
毎週母がモデルをしている雑誌を買ってきて、車の中で2人で狂ったように自慰をした。
父は高級ホテルで見た母と彼のsexのことを何度も話してくれた。
「綺麗な2つの体が交わって、まるでスポーツみたいなさわやかなsexだっなあ、それにすごくいい匂いがした」
「母さんはいつもいい匂いじゃない」
「ああ、でももっとねっとりと気が遠くなるような高貴な匂いだった」
「薬は使ってた?」
「たぶんな、快感が増幅されるんだろう」
「それで…父さん、彼の精液舐めさせてもらえた?」
「ああ、コンドームにたっぷり入ったやつを投げてもらった。私も一晩中2人のフェロモンを浴びて感覚がおかしくなってたんだろうが、もうその時には母さんをあそこまで喜ばせる精液はどんなだろうと思って、舐めたくて舐めたくてしかたなくなっていて、口に入れた瞬間、ねっとりと苦くて、芳ばしくて、とろけるようにうまかったんだ。母さんの言ってた「彼のスゴさ」を心底わからせられてしまったよ。それからしばらく、彼のために物件を探しているときも、費用を工面しているときも、何度も口の中にその味の記憶がよみがえってきて、あの一口の精液のお礼ができればって気持ちでいっぱいで、そのためならなんにも惜しくなくなってたんだ」
その夜、sexとdrugで昂ぶった母は父に彼の精液のたっぷり入ったコンドームを投げ与えて、父にこんな"誘導尋問"をしたのだそうだ。
「彼の精液はどう?」
「はい、とってもおいしいです」
「彼のスゴさがわかった?」
「はい」
「彼の子種がつまった一滴の精液と、あなたのあの息子の命、どっちが価値がある?」
「はい、もちろん彼の精液です。比べることも畏れ多いことです」
「ここまでしてもらわないと彼のスゴさがわからなかったことを反省する?」
「はい、反省します」
「彼にショボい物件をあてがおうとしたこと反省する?」
「はい、反省します」
「朝になったら彼にふさわしい物件を探しに行かないとね」
「はい、もちろんです」
「どうしてあなたが彼のマンションを探しに行くの?」
「はい、本物のsexを見せていいただいて、精子を舐めさせていただいたお礼です」
「じゃあ私たちは、朝まで後半戦を楽しむから、よーく味わいながら見て反省してね」
それを聞いて、私も彼の精液の味を想像して、生クリームをコンドームにつけて舐めたりした。
楽しかった車上生活も私が中学3年になったある日終止符が打たれた。
父はいつものように車をでて仕事に行き、そのまま帰らなかった。
私は新聞配達をしながら高校に通い、今はなんとか大人として暮らしている。
そうだ、父はもういない。
ということはつまり、やはりこれは夢だ。
遠い日の記憶だ。
公園のベンチの前に平伏した父と私の上を、中型犬が歩いている。
母と若い恋人は、すぐに立ち去るつもりだったようだが、犬が遊びたそうなので、しばらく留まることにしたらしく、ベンチに腰かけた。
目の前に腰かけている若者は、父がマンションを貢いだモデルでもなく、また新しい母の恋人らしかった。
睦まじい会話が聞こえ、やがて会話が途切れ合間に静かに唇を重ねる音がした。
父も私も、懐かしい気持ちに包まれた。
父は私の前からいなくなる直前、私を連れて母に会いにいったのだ。
このとき父が母の恋人に何を供与し、その金をどう工面したのかは今でもわからない。
確かなのは、父はその命と引き換えにその金を工面した、ということだ。
彼が答礼してくれる前に母が彼に小声で耳打ちしていたのが、父が彼に貢いだプレゼントの内容だったのかもしれない。
「犬の散歩コースの途中、彼といっしょに公園で答礼してあげる。夢みたいでしょ?」
新しい彼に対するプレゼントをしようと思った母が、忘れ去っていた父を思い出してそう持ちかけたのかもしれない。
確かに、このときの父と私にとってはまさに夢のような誘いだった。
現に父も私も一撃で射精してしまった。
夢みたいなのは、散歩の途中に人の頭を蹴る、たったそれだけの行為で多額の利益を得ることができる母と彼のほうではないか、と思われるかもしれないが、それは違う。
人には、他人に幸福を与えられる人と与えられない人がいる。
前者をA群、後者ををB群とすると、A群に属する人達は、A群に属する人達同士で互いを幸福にしながら睦ましく生きていくことができる。
一方B群に属する人達は、互いに幸せを与えることができないから、どうしてもA群に属する人達を求めてしまう。
A群に属する人達は簡単にB群に属する人達を幸せにしてあげることができるが、A群の人々にはB群の人達に関わるメリットは本来ない。
ここで、B群の人達がA群に属する人達に対する礼儀を尽くして、なんらかのメリットを供与することができれば、A群の人達に幸せにしてもらえる可能性が生まれる。
B群の人達が幸せになるためにはこの方法しかないのだということを、B群に属する父はよく知っていたし、A群に属する母もまた、それをよく理解していた。
母と父の関係は、そういう理解に基づいた関係だった。
犬のジョンは遊びに飽きたらしく、母の足下にじゃれついた。
「いきましょ」
母と彼はベンチから立ち上がった。
本当にこれが最後の別れだ。
もういちど答礼してくれることを祈ったが、コツコツとサンダルの音を立てて、あっさりと2人と1匹は立ち去ってしまった。
母と彼はすでに義理を果たしたのだ。
母はもう、父と私のことを思い出すこともなくなるだろう。
父と私はそのまま一時間ほど平伏していた。
やがて顔をあげ、ベンチににじり寄り、母と彼が座っていた部分に顔をうずめた。
もう温もりも匂いも残っていなかった。
父と私は泣きながら自分の手で性器をいじり、狂ったように自慰に耽った。
思うさま精液を吐き出した後、しばらくして父と私はのろのろと起き上がって服を着て、公園を後にした。
銭湯に行って、安い小さなラーメン屋でラーメンとチャーハンを貪り食い、上機嫌に酔っていた隣の席のおじさんにタバコを2本もらって1本ずつ吸った。
おじさんはジャイアンツファンらしい。
ブラウン管の小さなテレビの中では、斎藤がオレンジのぬいぐるみを抱えて今日の完封劇を振り返っていた。
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